暗い色の雲が集い、雨が降っている。
雨水は家屋のあちこちに取り付けられたパイプを辿り、
下水へと滑るように流れていった。
二人の男が、用事で薬材を調達している。
それぞれは赤い和傘を携えていた。
木製の棚が壁際に並べられ、その中に陳列している
変わった色をした木の実や薬草が、雨の湿気に独特の香りを醸し出す。
「・・・ん?」
傷薬の材料を選んでいた手を止め、
右頬に大きな切り傷の後が残る年若い男がふと気付く。
「どうした?」
立ち尽くす若い男に、隣で薬の値を確認していた髭面の男が返した。
「なぁ、あれ、天使様じゃ・・・」
任務での相棒が眺める方角に目をやる。
雨の隙間から、黒い外套に赤い雲模様が見えた。
「・・・いや・・・衣は同じだが、別の方だろう」
辺りの景色はやや暗いが、傘の隙間から視える髪の色は確かに漆黒だった。
ふと、二人の視線に気付いたのか、その影が僅かに振り返る。
その髪と同じ色の瞳、白い額。
一瞬二人の男を見遣り、遠目に見ても綺麗な形の瞳で瞬きを一つした後、
何事も無かったように歩みを進める。
男達が携えているものと同じ形の傘から、雨水が零れ落ちた。
「・・・綺麗な方だなぁ・・・」
その後姿をほぅっとため息を零して眺める相棒の脇を、髭面の男が肘で小突く。
「・・・変なこと考えてこの雨に当たったら、危ないぞお前」
冗談交じりにからかわれたが、言われた当人は、う、と短く言葉に詰まった。
今日は、日曜日だ。
2010/02/20 Tidori.
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