故郷では木の葉の色が鮮やかに色付く頃だろう。

やがて朽ち果て土に還る紅葉たちの香りを懐かしく感じる。


寝具に横たわったまま窓の外を眺めると、張り巡らされた電線や
無機質なパイプが取り付けられた建物が数多く見えた。
昨晩降っていた雨が、か弱い日差しで徐々に乾いていく。




少し肌寒い気温に反して身体に宿る熱が疎ましい。










額から頬を伝い、
次に彼の掌がイタチの喉元に触れる。

急所を他者に触れられる感覚に不安を覚え、反射的に僅かに身を引いた。


「・・・少し熱いな」


触れたものの下には確かに熱が篭っているのが感じ取れた。


「今日の修行は無しだ」


「そんな・・」


言葉を発そうとした所で肩を押され、先ほどまでの体勢に戻される。

柔らかな寝具の上に仰向けにされ、
前髪を除けるように額を掌で撫でられる。

冷水に浸した布を扱う手は冷たくて心地良い。
イタチは眼を伏せ熱の篭った息をゆっくりと静かにはいた。



「今は無理をするな」


イタチの二の腕辺りの横に片手をつき、もう片方の手で
寝具の上に広がった艶やかな長い黒髪を拾い上げ整える。

時折指の間から流れるように滑らせ、その感触を楽しんだ。


「・・・多少の無理も修行の内では」


「馬鹿のふりはやめろ」


ぴしゃりとそう返した彼は咽喉の奥でクク、と低く短く笑って見せると
髪を弄んでいた手を離し、服の上からイタチの胸を撫上げた。

突然の戯れに、不意を突かれたイタチは身体を震わせ
短く小さな声を上げた。


「・・・っ」


その様子を見て、彼は満足そうに眼を細める。
緩慢な動きで乱れていた上着を正し、手を離す。


「安静にな」


先ほど水気を適度に切った白い布をイタチの額にあてがってやると、
何か言いたげなイタチの瞳と視線がぶつかる。
熱があるせいなのかどうなのか、それは普段よりも潤みを増していた。


「・・・そんな目をするな」


「・・・そういう意味ではありません」


ではどのような意味合いなのだと。
イタチの頬を指先でくすぐる様に触れる。

イタチは微笑んで誤魔化した。










二人はどちらかが逝き果てるまで継続する契りを交わしている。

彼はイタチの全容を知る者だ。
イタチの真意を悟りつつも、
里を離れたばかりの不安定な心を支えた。

初めは一体どのような意図なのだろうと、
彼の今までの行いを思い返し疑問を抱えていたが。

彼は今では、暁に所属するイタチの身柄を保障する者であり、
己に更なる力を与えてくれる存在だった。

まるでその恋人を扱うような態度に身を委ねても
問題は無かった。



不思議なことに、互いの心裏を隠し合った上で
互いに安らぎの時間を得ている。




こんなに様々で大きな蟠りの全てが無ければ、
今頃一体どのような関係になっているのだろうと。

彼を見つめてそんな事を考えてしまう自分が可笑しかった。












木枯しに吹かれる故郷のものたちに想いを馳せる。


同じ風の気配がこの里にも感じて取れ、
その冷たさに目を伏せた。




















2009/10/18 Tidori.
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